ECC(Error Checking and Correcting)メモリは、データの信頼性や安定性を保つことに特化したメモリです。一般的なパソコンで使用されることはあまりありませんが、サーバーやワークステーションなど、長時間の安定した稼働が求められる環境では欠かせない存在なのです。
その一方で、ECCメモリは通常のメモリに比べて高価であり、エラーチェック処理が行われるため、わずかですが処理速度が低下する傾向にあります。しかし、これらのデメリットを考慮しても、データの信頼性を重視するシステムにとっては、ECCメモリは非常に重要なキーパーツとなっています。
本記事では、ECCメモリがどのようなシーンで必要なのか、そのメリット・デメリット、さらには使用する際の注意点などを解説しています。ECCメモリの導入を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
1.ECCメモリの基礎知識
1-1.ECCメモリとは?
ECCメモリのECCは“Error Checking and Correcting”の略で、「エラー訂正メモリ」と呼ばれることもあります。パソコンに使用されるメモリは、パソコン内部の電磁気的な干渉などによって、データの読み書きミス、すなわちエラーが発生することがあります。
データにエラーが発生すると、データの破損、さらにはパソコンのフリーズ、クラッシュといった現象が起こる可能性があります。データエラーの発生確率、さらにはそれによって引き起こされるトラブルの頻度はあまり高くないとはいえ、サーバーやワークステーションのように長時間稼働が求められるシステムでは、ちょっとしたエラーが大きなトラブルに繋がりかねません。
そこで、メモリにエラーが発生した際、自動的に検知、修正する機能を備えたECCメモリが必要となってくるのです。
1-2.ECCメモリがエラーを検出する仕組み
メモリには、電気的なノイズや宇宙線などの影響によってデータが反転してしまう「ビット反転」という現象が、ごくまれに起こることがあります。これがいわゆるエラーなのですが、ECCメモリは、エラー訂正コードを用いることにより、この「ビット反転」を検出。1ビットのエラーであれば訂正することができます。
ECCメモリは、データを書き込む際に、パリティビットと呼ばれる余剰ビットを使用し、暗号化コードとECCコードを格納します。そしてデータを読み出す際に、格納されたECCコードと、読み出し時に生成されたECCコードを比較。万が一、データが一致しない場合は、自動的にデータ修正が行われ、元の正しいデータに訂正します。
1-3.ECCメモリと非ECCメモリの見分け方
一般的なパソコンで使用されるメモリ、すなわちECC機能を持たない非ECCメモリはモジュール上に片面8個のメモリチップが搭載されています。一方、ECCメモリにはエラーを検出し、訂正するために9個目のチップが付け加えられているのが特徴です。
つまり、片面8個(両面実装の場合は16個)のメモリチップを搭載しているメモリは非ECCメモリ、片面9個(両面実装の場合は18個)のメモリチップを搭載していればECCメモリと判断することができます。
ただし、これはあくまでも単純な見分け方で、詳しくは後述しますが、ECCメモリには「レジスタードメモリ」と呼ばれる種類があり、単純なチップの数だけでは判断できない例外もありますので注意しましょう。
※サイコムで取り扱いのあるECCメモリは「レジスタードメモリ」です。
2.ECCメモリが必要なシーン
2-1.高い信頼性が求められる環境
通常のメモリは、エラーを検知・訂正することができず、そのまま放置されてしまうため、信頼性の高いデータ処理が求められる環境では致命的なトラブルが発生してしまう可能性があります。
そのため、金融機関のデータベース管理や、医療機関の患者情報システムなど、長期間にわたる安定かつ正確なデータ運用が重要な環境においては、ECCメモリを利用することによってエラーによるトラブルを未然に防ぎ、データの信頼性を確保できます。
2-2.サーバーやワークステーションでの使用
同様に、長期間の安定した稼働が求められるサーバーやワークステーションでも、多くの場合、ECCメモリが使用されています。特に、24時間365日稼働が必要となる環境においては、メモリエラーが発生するとシステムのダウンやデータの破損などのリスクが高くなるため、ECCメモリの使用が必須となります。
ECCメモリを採用することによって、リスクを軽減、回避し、安定した運用が可能になるので、特にデータセンターやクラウドサービス、科学技術計算に使用されるスーパーコンピュータなどの用途でもECCメモリが採用されています。
2-3.一般的なパソコンには使用されない
一方、ゲーミングPCや一般的な用途に使用されるパソコンには、基本的にECCメモリは使用されません。例えばWEB閲覧や動画視聴、オフィス系ソフトの使用といった用途では、ECCメモリを利用するメリットよりもデメリットのほうが大きくなってしまうからです。
ECCメモリは、データの信頼性が重要となる環境で使用されますが、エラーが発生しても計算結果に影響が出るということではなく、ブルースクリーンなどで再起動を余儀なくされるため、24時間365日、ノンストップで稼働させる必要がある環境でなければあまり気にする必要はないかもしれません。
さらに、ECCメモリは通常のメモリよりも高価なため、コストパフォーマンスを考えても、一般的なパソコンにECCメモリをあえて採用する必要性はあまりないと考えて良いでしょう。
3.ECCメモリのメリット・デメリット
3-1.ECCメモリを使用するメリット
ECCメモリの最大の特徴は、データの読み書き時に発生するエラーを検出し、自動的に修正できるところです。この機能により、データ破損やシステムクラッシュに繋がるようなトラブルを未然に防ぐことが可能となるのです。
特にサーバーやワークステーションにように長時間の稼働が前提となるシステムの場合は、エラーが発生する確率も高くなりますので、ECCメモリを採用することによって、メモリエラーによるシステムクラッシュのリスクが軽減し、安定した運用を可能になります。
さらに、データベースや科学技術計算など、データの正確性、信頼性が求められるような用途においても、長時間の稼働の安定した稼働が重要視されますので、ECCメモリの利用が推奨されています。
3-2.ECCメモリを使用するデメリット
ECCメモリの最もネガティブなポイントは、通常のメモリに比べて価格が高いところです。ECC機能を実現するため、物理的にチップ数が多くなるのに加えて、製造工程も複雑になるため、高価になるのは必然であり。特にサーバーやワークステーションにように大量のメモリを搭載する環境では、ECCメモリを採用することで初期費用が大幅に増加してしまいます。
そのため、限られた予算内でシステムを構築する場合、あるいはコストパフォーマンスを重視する場合は、あえてECCメモリを採用しないという判断も必要となってくるのです。
また、コスト面でいうと、ECCメモリは、エラー検出・訂正機能が追加されているため、通常のメモリに比べて消費電力も大きくなります。その結果として発熱量も増加するため、冷却面での対策も必要となります。
さらにECCメモリは、エラー検出・訂正処理を実現するため、余剰ビットの計算や書き込みが必要となり、通常のメモリに比べて処理速度がわずかですが遅くなってしまいます。そのため、少しでも速度面でのパフォーマンスを重視するのであれば、非ECCメモリを使用する環境に軍配が上がります。
4.ECCメモリを選ぶ際のポイント・注意点
4-1.CPUやマザーボードの対応が必須
ECCメモリの使用を検討する際、まず最初にチェックしなければならないのがCPUおよびマザーボードの対応状況です。CPU、マザーボードが対応していないとECCメモリは使用できないからです。
一般的にECCメモリをサポートしているのはサーバー/ワークステーション向けのパーツです。CPUの場合は、「Intel Xeon」や「AMD EPYC」、「AMD Ryzen Threadripper」などは当然ECCメモリをサポートしています。その一方で、第12世代以降の「Intel Core」や第3世代以降の「AMD Ryzen」(APUを除く)も実はECCメモリをサポートしており、ワークステーション用途でECCメモリと組み合わせることができます。いわゆるデスクトップ向けCPUは、世代や型番によって対応状況が異なるため、ECCメモリの利用を検討する場合は、必ず対応状況を確認することをおすすめします。
そして、CPUによるサポートに加えて、マザーボードの対応も必須。マザーボードの対応状況は製品によって異なりますので、必ずマニュアルなどで確認しましょう。
4-2.ECCメモリと非ECCメモリを混在させない
ECCメモリと非ECCメモリはチップの数は異なりますが、切り欠きなどは同じ位置にあります。つまりECCメモリであれ、非ECCメモリであれ、同じメモリソケットに装着することができるわけです。
それでは両者を混在させると動作するのかという疑問が浮かびますが、基本的には両者の互換性は保証されていないため、動く場合もあれば動かない場合もあるという回答になります。そしてたとえ動いたとしてもECC機能は無効化されますし、結局トラブルの元になりかねませんので、あえて混在させて使用する意味はほとんどありません。
なお、ECC対応マザーボードで非ECCメモリを使用する場合は、UEFI(BIOS)でECC機能を無効にする必要があります。逆に、無効にする設定がない場合は、非ECCメモリが利用できない可能性が高いので、必ずマニュアルなどをチェックしましょう。
4-3.レジスタードメモリとは?
ECCメモリについて解説するにあたり、忘れてはいけないのが「レジスタード(Registerd)メモリ」の存在です。メモリモジュールには大きく分けて以下の4種類があります。
- アンバッファード/ECCなし
- アンバッファード/ECCあり
- レジスタード/ECCなし
- レジスタード/ECCあり
この中で、「3. レジスタード/ECCなし」は規格的には存在しますが、実際には使用されることはほとんどないため、無視しても問題ありません。
レジスタードメモリは、レジスタバッファと呼ばれるチップを搭載することで、メモリとメモリコントローラー間の信号を調整し、大容量のメモリを安定して動作させることができるメモリです。基本的には大容量メモリが必要となる中~大規模サーバーで使用されることが多く、一般的なパソコンや小規模のサーバー/ワークステーション用途では、レジスタバッファのない「アンバッファード(Unbuffered)メモリ」が使用されます。なお、一般的なメモリは「1. アンバッファード/ECCなし」となります。マザーボードのマニュアルなどには、アンバッファードメモリは「UDIMM」、レジスタードメモリは「RDIMM」と表記されることもあるので、覚えておきましょう。
レジスタードメモリは大容量かつ高い安定性に寄与しますが、非常に高価なため、前述のとおり、中~大規模サーバーや高機能ワークステーションなどで使用されることが多くなります。個人、あるいは小規模環境ではコスト面からも「2. アンバッファード/ECCあり」が使用される傾向にあります。なお、Zen4世代の「AMD Ryzen Threadripper」のようにレジスタードメモリのみをサポートするCPUも存在しますので、その場合はレジスタードメモリの使用が必須となります。
ECCメモリはチップの数で見分けられるという話をしましたが、ECCありのレジスタードメモリは、レジスタバッファが搭載されるなど先に紹介した片面9個の原則からは外れますので注意が必要です。また、アンバッファードメモリとレジスタードメモリには互換性がありませんので、混在させて使用することはできません。
5.ECCメモリ搭載のワークステーション向けPCを紹介
5-1.Lepton WS3900W790
BTOメーカー・サイコムがプロフェッショナル向けと位置づける「Lepton」シリーズにおいて、「Lepton WS3900W790」は24コア/48スレッドの「Intel Xeon w7-2495X」と「Intel W790 チップセット」搭載マザーボードを組み合わせた、プロクリエイター向けの高機能ワークステーションです。
メモリはECCレジスタードのDDR5-4800を64GB(16GB×4)を搭載し、「NVIDIA GeForce RTX 4070 SUPER」搭載ビデオカードを採用するなど性能面の高さも期待大。安定かつハイパフォーマンスのワークステーションとして注目の1台となっています。
【Lepton WS3900W790】標準構成 |
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CPU:Intel Xeon w7-2495X(2.5GHz、24コア/48スレッド) メモリ:ECCレジスタード/DDR5-4800 64GB(16GB×4) チップセット:Intel W790 チップセット SSD:1TB(NVMe/M.2 SSD) ビデオカード:NVIDIA GeForce RTX 4070 SUPER(12GB) |
5-2.Lepton WS4000TRX50A
「Lepton WS4000TRX50A」は、32コア/64スレッドのハイパワーが魅力となる「AMD Ryzen Threadripper 7970X」と「AMD TRX50 チップセット」搭載マザーボードを組み合わせた、最高峰のパフォーマンスが体感できるワークステーションです。
メモリはECCレジスタードのDDR5-4800を64GB(16GB×4)を搭載し、「NVIDIA GeForce RTX 4060」搭載ビデオカードを採用。反復処理、レンダリング、コンパイルなど、様々な処理を快適かつスムーズにクリアする高いパフォーマンスが魅力の1台に仕上がっています。
【Lepton WS4000TRX50A】標準構成 |
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CPU:AMD Ryzen Threadripper 7970X(4.0GHz、32コア/64スレッド) メモリ:ECCレジスタード/DDR5-4800 64GB(16GB×4) チップセット:AMD TRX50 チップセット SSD:1TB(NVMe/M.2 SSD) ビデオカード:NVIDIA GeForce RTX 4060(8GB) |
5-3.Lepton Hydro WSTRX50A
「Lepton Hydro WSTRX50A」は、標準構成で「AMD Ryzen Threadripper 7970X」と「AMD TRX50 チップセット」搭載マザーボードを組み合わせた、AMDプラットフォームの高機能ワークステーションモデルで、CPUとビデオカードの冷却に水冷システムを採用したデュアル水冷モデルとなっています。
メモリは、ECCレジスタードのDDR5-4800を128GB(32GB×4)搭載するなど妥協なき構成が魅力。ビデオカードは水冷仕様の「NVIDIA GeForce RTX 4080 SUPER」を採用していますが、カスタマイズによって「NVIDIA GeForce RTX 4090」へとさらなるパワーアップも可能となっています。
【Lepton Hydro WSTRX50A】標準構成 |
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CPU:AMD Ryzen Threadripper 7970X(4.0GHz、32コア/64スレッド) メモリ:ECCレジスタード/DDR5-4800 128GB(32GB×4) チップセット:AMD TRX50 チップセット SSD:1TB(NVMe/M.2 SSD) ビデオカード:NVIDIA GeForce RTX 4080 SUPER(16GB) |
5-4.Lepton Hydro WSTRX50A Tri-LC
「Lepton Hydro WSTRX50A Tri-LC」は、ビデオカード2枚を搭載し、CPUの冷却と合わせて、サイコム初の「トリプル水冷」を採用した、究極のワークステーションモデルとなっています。
「AMD Ryzen Threadripper 7970X」と「AMD TRX50 チップセット」搭載マザーボードの組み合わせを採用し、メモリはECCレジスタードのDDR5-4800を128GB(32GB×4)搭載。さらに水冷仕様の「NVIDIA GeForce RTX 4090」を2枚挿しという妥協なき構成が最高級のパフォーマンスを予感させます。
【Lepton Hydro WSTRX50A Tri-LC】標準構成 |
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CPU:AMD Ryzen Threadripper 7970X(4.0GHz、32コア/64スレッド) メモリ:ECCレジスタード/DDR5-4800 128GB(32GB×4) チップセット:AMD TRX50 チップセット SSD:1TB(NVMe/M.2 SSD) ビデオカード:NVIDIA GeForce RTX 4090(24GB)×2 |
6.まとめ
ECCメモリは、データエラーに対して検出・訂正する機能を備えているため、長時間の安定した稼働が求められるサーバーやワークステーションにおいては必須のメモリとなっています。
信頼性の高さは、サーバー/ワークステーションに限らず。一般的なパソコンにも求められますが、コスト面やパフォーマンスの低下といった、メリット・デメリットを考慮すると、あえてECCメモリを使用する必要はありません。あくまでも長時間稼働が必須で、システムダウンが致命的なトラブルに繋がるような環境でこそECCメモリの重要性は高まります。
本記事では、ECCメモリが必要とされるシーンや、メリット・デメリット、使用する際の注意点などを解説してきました。安定した環境構築を目指している方は、ぜひECCメモリの導入を検討してみてください。
北海道の牧場で馬と戯れる日々を経て、パソコン雑誌やWEBニュース媒体の編集長を歴任する。Athlonに心奪われ、Xeonに絶対の忠誠を誓ったのも今や昔。現在は、編集業を中心に、原稿執筆からカメラマン、果てはアニメの宣伝プロデューサーまで、本業不明の生活を送る。ユーザーの心をがっつり掴む各種オウンドメディアを運営中。 プロフィールはこちら
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