NoctuaのCEO Roland Mossigさんとの特別対談 - サイコムがNoctuaの製品にこだわる理由とは

ハイスペックなパソコンを長く快適に使っていくうえで、冷却性能の高さや静音性はとても重要な要素のひとつです。

BTOパソコンメーカーのサイコムは、多くの人気モデルでNoctua製のCPUクーラーやケースファンを標準搭載。

今回は、来日されたNoctuaのCEO、Roland Mossigさんとサイコムのプロダクトマネージャーである山田正太郎さんとの対談の模様をご紹介。

Noctuaの製品にかける熱い想いをはじめ、サイコムがNocutaの製品にこだわる理由を、ぜひご覧ください。

1.冷却性能や静音性で重視するポイント

Noctua CEO Roland Mossigさん

Rolandさん:ご招待いただきありがとうございます。サイコムに来ることができ、とても嬉しく思っています。

山田さん:多くのユーザーは、Noctuaの名前や高性能な製品についてよく知っていますが、その裏側にいる人々や製品が作られた背景についてはあまり知りません。その部分を知りたいという要望が多いんです。

Rolandさん:まさにその点が今回の対談の目的のひとつです。もちろん私たちの製品自体が一番に語るべきですが、ユーザーの皆様が関心を持つべきなのもそこだと思います。通常、Noctuaで働く私たちは裏方であり、表に出るべきなのは製品そのものです。例えばNH-D15 G2のような製品が主役であって、私たち社員ではないと考えています。

山田さん:では最初の質問に移りましょう。Noctuaは静音性と冷却性能のバランスをとても重要視していますが、具体的にはどのようなポイントを重視していますか?

Rolandさん:とても良い質問をありがとうございます。私たちの目標は常に市場で最高の製品を開発することです。Noctuaの視点から見た最高の製品というのは、『性能と騒音』のバランスが最適な製品です。性能の高さは当然ながら最優先事項であり、そのためにあらゆる手法を用いてクーラーやファンの性能を限界まで高めます。その上で、騒音レベルを可能な限り抑え、また音響技術を駆使して音質を快適なものに調整しています。単純にデシベル値を見るだけでは不十分で、本当に大切なのは音の快適さなのです。
騒音問題は現代社会において誰もが抱える課題となっています。世界保健機関(WHO)は、オフィスや自宅、ましてや寝室などの環境において推奨される騒音レベルを設定しています。騒音は私たちにストレスを与え、健康にも悪影響を及ぼします。Noctuaが世界に貢献できることは、PCから発生する騒音を最小限に抑えながら、ゲームなどを含めたPCの高い性能を楽しめるようにすることだと考えています。

山田さん:私も音質について気になっていました。デシベル数は同じでも、音の周波数によって非常に不快に感じることがありますよね。同じデシベルでも、他の音よりもあまり気にならないものもあります。Noctuaはこの音の性質やノイズの特性を極めて低く抑えている点が好きです。

Rolandさん:そうですね。その点は開発過程でとても重視しています。
まず第一段階として、効率を高めてノイズの発生そのものを最小限に抑えます。第二段階として、特別な調整や、ときには簡単な工夫でノイズの質を微調整します。ただ、ユーザーの皆様が理解し、比較できるのは基本的にデシベルの数字です。一方、ノイズの質というのは非常に複雑な問題ですが、私たちの開発プロセスにおいては重要な要素です。

2.Nocutaの特徴的なカラーリングについて

山田さん:この質問をしないわけにはいきません。Noctuaといえばブラウンとベージュの独特な配色が有名です。この色を選んだ背景を教えていただけますか?

Rolandさん:これはかなり昔の話です。色を決定するにあたっては、私の妻であり共同創業者の意見が大きく影響しています。妻はマーケティング部門で活動し、現在は人事部門を担当していますが、私たちの会社の成功にとって非常に重要な存在です。彼女はとてもクリエイティブで、カラーリングの選択には特別なセンスがあります。
約20年前、Noctuaを創業した頃を振り返ると、PCクーラーの標準的な色は赤や青、シルバー、黒などが主流でした。私たちは他とはちがう色を選びたかったのです。私たちは静かで落ち着いたものが好きで、コーヒーやチョコレートのような柔らかいイメージを反映したかったのです。
そこで、PC業界ではまったく一般的ではない色を選ぶことにしました。皆さんもおいしいコーヒーを飲みながらチョコレートを食べるときほど良い瞬間はないと思います。そのイメージをNoctuaの色に取り入れました。
さらに、私たちが梟(フクロウ)を会社のシンボルに選んだのは、フクロウが知恵の象徴だからです。国によってフクロウにちがう意味があることも後で知りましたが、私たちの文化ではフクロウは知恵を象徴します。
そうして色を決めるとき、自然とブラウンになりました。そしてブラウンに合う色としてミルクを連想するベージュを選びました。これは非常にユニークで特徴的であり、現在ではNoctuaのシグネチャーカラーとなっています。

山田さん:当時はかなりチャレンジングな決断だったでしょうね。

Rolandさん:実は批判のメールもたくさん受け取りました。『あの色は好きじゃない』と文句を言われたこともあります。ただその文句の裏には、製品の技術的な部分を気に入っているという意味が込められていました。製品自体に関心がなければ、そもそも苦情すら来ないはずです。
私たちは、『技術面では間違っていない、良い製品を作っている』と確信しました。結局のところ、私たちはデザイン会社ではなく、冷却ソリューションを提供する会社ですから。今では、あのカラーリングがNoctuaの象徴であり、性能面でも私たちはベンチマークと認識されるようになりました。常に最高のパフォーマンスを追求し、トップに立つことを目指しています。

3.製品の開発に時間をかける理由

山田さん:Noctuaは製品開発に長い時間をかけることで有名です。ひとつのプロジェクトに数年、時には5年もかけることがあると。開発にそれほどの時間をかける理由や、開発期間中に特に注力しているポイントは何でしょうか?どのように他社との差別化を図っているのですか?

Rolandさん:難しい質問ですね。基本的に、製品が完璧に近づくまでは市場に出しません。私たちの組織においては完璧を目指すという文化があります。当然ながら完璧はありえませんが、それが私たちの目指す方向性です。
CPUクーラーは一見シンプルに見えますが、その中には非常に細かな技術的要素が詰まっています。そのため、優れた性能を発揮するためには長い時間が必要です。
例えばアイデアが浮かんでも、実際に量産できるようになるまでに数年を要することもあります。ファンを製造する工程でも高い精度が必要で、製造プロセスを緻密に調整することで品質を安定させています。
さらに重要なのは、製品寿命の長さだけでなく、製品が数世代のPCにも対応できるという点です。CPUクーラーを設計するときには、将来のマザーボードの状況や、次世代CPUの形状やソケットまで予測し、長期間使える設計を考えています。そのためには多くの要素を考慮する必要があります。
このような考え方が、Noctua製品の持続可能性を高めています。実際、私たちの最初期の製品を17年以上使い続けているお客様もいるほどです。

山田さん:それは今のマザーボードでもまだ使えるということですよね?

Rolandさん:はい、そうです。最新世代のハイエンドCPUを冷却するのは少し難しいですが、互換性という意味では使えます。今でも無料のマウンティングキットを提供しているんです。実際、そのお客様は購入証明をアップロードしてマウンティングキットを受け取っていました。

山田さん:それは本当に素晴らしいです。新しい世代のマウンティングキットを提供してユーザーを長期サポートする会社はほとんど見かけません。

Rolandさん:最近は他社も似たような対応を始めていますが、Noctuaのように何年も遡って対応できる会社はほとんどないでしょう。というのも、基本的に私たちのマウンティングシステムの設計はそれほど大きく変化していないからです。もちろん小さな変更はありますが、大きな基本設計は維持しています。
自社工場を持っているからこそ実現できることでもありますね。他社の場合、異なる世代のCPUクーラーを色々なメーカーから購入し、それに伴ってマウンティングシステムも変更するため、対応が難しいでしょう。私たちの場合は全製品が台湾のパートナー企業『KOLINK』で製造されています。KOLINKはNoctuaの一部であり、創業当時からこの体制は変えていません。

4.日本市場の特徴とは

山田さん:Noctuaは日本市場に参入してもう15年以上経ちますが、他の地域と比較して、日本市場にはどのような特徴があると感じますか?

Rolandさん:ヨーロッパやアメリカと非常に似ていて、技術的にもっとも先進的な製品がよく売れる傾向で、日本も例外ではありません。ただ、今回の来日で強く感じたことは、日本のユーザーは他の市場よりもさらに技術的な詳細に興味を持っているということです。
先週、日本のユーザーの方々と直接話をしたとき、皆さんの知識量の多さや質問の専門性にとても驚きました。おそらく全ての質問に答えられたとは思いますが、技術的に深すぎてエンジニアが必要だと思ったこともありました。
また、日本のユーザーは私たちの製品に込められた職人的なこだわりや細部への配慮、製造精度の高さをよく理解してくれていると感じます。ひとつひとつが同じ品質で作られ、ばらつきがなく、いつでも良い経験が得られる製品であることを評価してくれています。

さらに、製品の寿命や次世代PCへの継続利用など、製品の長期的な使用を非常に重視しています。先日、あるプレスの方から『5年前にTDPが95WだったCPUクーラーが、今では250WのCPUを冷やせることをどのように予測したのか?』という質問を受けました。これは興味深い質問でした。実際には予測したわけではなく、常に最高のものを作ろうと設計している結果、性能が長期にわたり維持できているだけです。製品を少し過剰なほど作り込むことが、このように将来的な性能向上にも対応できることを証明していると思います。

山田さん:特に日本のNoctuaファンは非常に技術的な方が多いと感じます。実際、弊社の社員の中にも熱心なNoctuaファンがいて、製品に非常に詳しいんです。
弊社のお客様も非常に技術志向が強く、ご自身がどういう製品を購入されているか、製品がどのように動作するのかをとても理解されています。

Rolandさん:その通りです。日本のユーザーの皆様にごまかしは効きません。常に正直で謙虚である必要があります。もし製品について誇張したり、架空の情報を宣伝したりすれば、すぐに見抜かれて、私たちはその代償を払うことになるでしょう。
日本のユーザーの皆様が評価してくれているのも、この誠実さと技術的な裏付けがあるマーケティングだと思います。私たちの製品は派手な機能や派手な演出ではなく、本当に使える、本物の製品であることを目指しています。

山田さん:それは私たちサイコムと共通している部分だと思います。私たちも派手なRGBや過剰な演出にはあまり興味がありません。

Rolandさん:もちろんそういった派手さも悪くはありません。否定はしませんが、私たちのやり方ではありません。私たちは絶対に性能を犠牲にしてまでLEDライトを付けることはありません。それが私たちの根本的なアイデンティティです。
性能が第一、品質が第二であり、派手さのための妥協は一切許しません。申し訳ないですが、私たちの製品に派手な装飾は期待しないでください(笑)。

5.NocutaがAIOに参入しない理由とは

山田さん:AIO(簡易水冷クーラー)への参入は検討されたことはありますか?

Rolandさん:これまで何度も検討しましたが、調査を深めていくほど多くの課題が見えてきて、結局参入を見送っています。AIOにおける課題のひとつはポンプの耐久性です。私たちが提供する6年間の保証を満たせないと考えています。
もうひとつの課題は浸透現象(冷却液の劣化)です。水冷システムでは時間が経つにつれ液体が劣化し、PC内部のスペースの制約から十分なリザーバータンクを用意することもできません。
騒音も大きな課題のひとつです。水を循環させるポンプは、空気を動かすファンより強力なモーターが必要です。強力なポンプは必然的に騒音を発生させ、微小な振動も発生します。これがマザーボードに直接伝わり、PC全体が共鳴してスピーカーのように音を増幅させてしまうことがあります。
さらに水は空気よりもはるかに効率よく音を伝えるため、ポンプの騒音はラジエーターにも容易に伝わります。この現象は一般の方にはわかりにくいかもしれませんが、私たちのようなプロが注意深く聴けば明確に認識できます。

要するに、課題は2つあります。まず6年以上安定動作できるようにすること。次に、ポンプの騒音問題を解決することです。現時点ではまだすべての条件を満たせていないため、NoctuaブランドのAIOは存在しません。ただし、ファンに関してはAIO用の優れた製品を提供しています。
現在、将来的な製品として『サーマルサイフォン』という技術を開発しています。一見すると水冷システムのようですが、ポンプを使用しないため、騒音問題を根本的に解決できる可能性があります。2026年には製品化できることを目標にしています。

山田さん:それはとても楽しみですね。皆さんも期待していると思います。

Rolandさん:この技術はきっと市場に革命を起こすでしょう。もちろん、サイコムさんには最初にサンプルをお渡しするつもりです。

6.デスクトップPCの静音性の重要性

山田さん:デスクトップPCにおける『静音性』の重要性について、Noctuaとしての考えを教えてください。

Rolandさん:私の個人的なエピソードをお話ししましょう。もしかすると似た経験をされた方も多いかもしれません。
Noctuaを創業するずっと前、学生時代に私が使っていた最初のPCの話です。当時、私はゲームが好きで、特に『Civilization』をよく遊んでいました。ゲームに数時間集中して、終わった後にPCをシャットダウンすると、突然訪れる静けさに驚きました。
それまで何時間もPCの騒音に気付かなかったのですが、PCを消した瞬間にストレスから解放される感覚を強く感じました。
つまり騒音というのは苦痛を与えるもので、私たちは環境中のあらゆる騒音をできる限り削減する努力をすべきです。私たちNoctuaの使命は、PCからの騒音を最小限に抑えつつ、高性能なPC環境を提供することです。

最新のゲームを高解像度で楽しむためには、高性能なグラフィックカードやCPUが必要ですが、それらを冷却するために周囲の人が騒音に苦しむような状況は避けるべきです。特にヘッドセットを装着している本人は騒音に気付きませんが、家族など周囲の人々がその騒音に苦しむことになります。可能であれば静かな冷却システムを選んでほしいです。
サイコムが行っている『騒音レベルの保証』や、ウェブサイトでPCの動作音のサンプルを公開する取り組みは本当に素晴らしいです。他の企業もこの方法を模倣してほしいと思うほど素晴らしいアイデアです。

山田さん:私としてもそれを願っていますが、実現には少し時間がかかると思います。

Rolandさん:おっしゃる通りです。静音PCを実現するには、かなり本格的な研究開発が必要です。単純に『このパーツとこのパーツを入れて、適当なケースに入れて完成』というわけにはいきません。
ただ、サイコムさんのようなプロフェッショナルなPCメーカーもあれば、他にも多くのプロフェッショナルなPCメーカーがありますよね。私が考えるのは、派手なLEDライトや装飾を施した製品だけでなく、すべてのPCメーカーが少なくともひとつは高性能で静音性に優れた製品を提供すべきではないかということです。静音PCは本当に素晴らしい製品だと思います。

山田さん:もちろん心配はいりません。私たちはこの方向性で引き続き努力を続けていきます。市場での認知度も、私たちは単に高性能というだけでなく、静音性でもよく知られています。

Rolandさん:確かにそれは非常に良いセールスポイントですよね。

山田さん:はい、そうやって私たちは他社と差別化しています。

Rolandさん:だからこそ、私たち2社の関係がうまくいっているんでしょうね。

山田さん:まったくその通りです。現代社会にはもっとストレスが少なくなるような製品が必要ですから。

7.サイコムをパートナーに選んだきっかけ

山田さん:サイコムとNoctuaの協力関係について、どのような経緯でビジネスがはじまったのか、なぜサイコムをパートナーのひとつとして選んだのか、当時の背景を教えていただけますか?

Rolandさん:きっかけは2014年のComputexでした。当時はひとつの国にひとつの輸入代理店を設ける方針でしたが、日本ではうまく機能していない状況がありました。そこにサイコムさんが現れ、『私たちはシステムインテグレーター(PC組立業者)である』とおっしゃったのです。
市場のチャネル構造について説明すると、小売りの場合は通常、輸入代理店がいて、そこから日本の有名なショップが部材を仕入れて販売するという流れです。このような小売販売ルートでは、明確な流通構造を保つ必要があります。

一方でシステムインテグレーターの場合、部品そのものを販売するわけではなく、組み立てPCとして販売するため、流通構造が少し異なります。そのため、サイコムさんと協力することは簡単な決定でした。
特にサイコムさんのようにコンセプトを明確に持った会社とは、直接連絡を取り合い、技術的な質問や課題が出てきたときに迅速にサポートができます。販売担当者を通じて話が伝わるより、直接連絡を取る方がコミュニケーションロスが少なくて済みますからね。

実際、この関係性は非常にうまく機能しています。サイコムさんにとっても良いでしょうし、私たちにとっても良い関係性だと感じています。世界で初めて『騒音レベル認定PC』を一緒に開発できたことを、私たちも非常に誇りに感じています。

山田さん:まさに私たちもそう感じています。

Rolandさん:実は、この関係性は私個人にとっても大きな刺激になっています。サイコムさんとの関係性がきっかけで、弊社の研究開発部門に新しい部署を設立しました。その部署の目的は『統合性(インテグレーション)』をさらに高めることです。
従来は個々のパーツを単体として評価していました。たとえばCPUクーラー用のファン、AIO用のラジエーターファンなど、優れた製品を作ってきました。しかし、サイコムさんが私たちに示してくれたのは、『個々の部品の性能だけではなく、システム全体の統合を考えることで、さらに優れたパフォーマンスを発揮できる』という視点でした。視野を広げることで、まだ発見されていない改善の余地や知恵を見つけ出し、ユーザーの皆様へ新しい価値を提供できます。

最終的には、ユーザーの皆様が購入された製品に満足し、最高の状態で使用していただけることが一番大切です。そのために、新しい部署ではシステム全体の性能や統合性を高める方法について研究を進めています。
例えば最近、弊社のブログでFractal社の『North』というケースについての記事を公開しました。このケースは私たちのユーザーの皆様にも非常に人気があります。その理由のひとつは『木材』を使っており、私たちのブラウンとベージュの配色と非常に相性が良いことです。
日本のYouTuberの方も素晴らしいシステムを作っていて、お名前は確か『GreyGhost CCC』さんでしたか?彼は『North』を使って非常に美しいPCを作り、そのビルド動画を公開した最初の方の一人でした。私たちが確認した統計によれば、数百万人の人々がその動画を視聴したようです。
私たちの最初のブログ記事のひとつとして、この『North』を取り上げました。ファンの配置や冷却性能をどのように改善できるかを掘り下げて研究し、ケースに付属する標準のファンとNoctua製ファンに置き換えた場合のちがいや、そのメリット、具体的な性能向上についても解説しています。『North』をお持ちの方は、ぜひ参考に読んでいただけると興味深い内容だと思います。

山田さん:私たちがどのようにシステムを構築するか、ご理解いただけたと思います。サイコムに何を期待されているのかもよくわかりました。もっと静音性の高いPCをご期待いただいているわけですね。

Rolandさん:もちろんです。それが私たちの得意分野であり、進むべき道だと思っています。

山田さん:ただ、静音性だけではありません。同時に高いパフォーマンスも必要です。

Rolandさん:もちろん、その通りです。性能は当然、確保されるべきです。PCの電源を切ってしまえば誰でも静かにできますからね。

山田さん:はい、ファンの回転数(RPM)を下げるだけでも静かにはなりますが、それだけでは不十分ですから。

Rolandさん:もしCPUがサーマルスロットリング(温度が上昇しすぎた際に自動的に性能を下げる機能)を起こしたり、グラフィックカードが本来のパフォーマンスを発揮できないなら意味がありません。まずは十分な冷却性能が確保されることが第一です。その上で、私たちは『可能な限りノイズを抑えて性能を維持する方法』を考える必要があります。

山田さん:そのバランスが重要ですね。

Rolandさん:はい、最終的にはバランスが重要です。単純にファンの回転数を上げるだけであれば、冷却性能は簡単に向上させられますが、それではヘアドライヤーのような騒音になります。

8.今後の製品展開について教えてください

Rolandさん:私たちのウェブサイトでは、今後1年から1年半の間に発売される予定の製品ロードマップを公開しています。まずもっとも注目すべき製品は次世代のA12ファンです。これはかなり興味深い改良になるでしょう。
今年の後半には『NF-A14 x25 G2』のChromax(ブラック)バージョン、またヒートシンクのChromax版もリリース予定です。さらに計画通りに進めば、次世代ファンのChromaxバージョンも登場する予定です。これらが現在私たちが注力している主な製品です。

山田さん:現行のNF-A12 x25も非常に優れた製品で、市場で最高クラスのファンのひとつだと思います。既存のモデルも引き続き販売されるのですか?

Rolandさん:はい、通常であれば、現行世代の製品はお客様が必要とされる限り販売を続けます。もちろん次世代製品は性能が向上しますが、すぐに既存製品の製造を中止することはありません。段階的に販売を終了することになる見込みです。

例えば、私たちの伝説的な製品『U12 SE2』という特別版がありましたが、覚えていますか?『U12』シリーズは15年以上前に販売されていました。その後、『U12S』が後継として登場し、性能も互換性も優れているため、ユーザーの皆様に買い替えを推奨しました。しかし、公式サイトで販売終了と発表した後も、数年に渡り古い『U12』を求めるユーザーの方が絶えませんでした。私たちとしては新製品への移行を強く推奨しましたが、根強く愛用してくださる方はいらっしゃるものです。
A12についても同様です。A12ファンはNoctua史上もっとも難しく、もっとも挑戦的な開発プロジェクトのひとつでした。5年以上の開発期間を経て完成した製品です。ユーザーの皆様が買い替えの決断を下すまで、安心して手に入れることができます。

9.Rolandさんお気に入りの製品とは

Rolandさん:『NH-D15 G2』です。エンジニアリングの視点から見ても傑作です。このクーラーに使われているファンは特に優れていて、2つのファンがあえてわずかに異なる回転数(RPM)で動作するよう設計されています。これにより、心理音響的(psycho-acoustic)な観点から、音の印象が非常に快適になります。
さらに、合計8本のヒートパイプが採用されており、将来的にCPUの熱がさらに高くなったとしても、十分対応できる設計になっています。CPUとクーラーの接触を最適化するために、ベース部分が異なる凸状設計になっているのも大きな特徴です。こうしたアイデアはまさに私たちのエンジニアの素晴らしい発想です。
そして、この微細な設計を精密に製造できることも非常に重要です。実際、この3つの異なるバージョンのちがいは、目に見えないマイクロメートル(μm)レベルでしかありません。この精度で製造できるメーカーはおそらく世界でもNoctuaだけだと思います。

山田さん:そんなに細かなちがいがあるんですね。

Rolandさん:ええ、そういった理由で『NH-D15 G2』が私たちのフラッグシップCPUクーラーであり、私自身も非常に気に入っています。

山田さん:ありがとうございます。私も大好きな製品ですし、弊社のお客様も本当に気に入って購入されています。

Rolandさん:非常に完成された製品ですし、あと10年くらいは問題なく使えると思いますよ。

山田さん:製品の長期的な寿命と価格のバランスを考えれば、合理的な選択だと思います。価格だけを見れば高価に感じるかもしれませんが、長期的な視点で見ると妥当な金額だと思います。

Rolandさん:そうですね。もちろん何が妥当かは人それぞれ異なると思います。ただ、これらを開発するには非常に多くの時間と労力がかかっています。また、製品寿命の観点からも、先ほどお話ししたユーザーの方のように17年間も同じクーラーを使い続けているケースもあります。17年もあればCPUの世代が3〜5回くらいは入れ替わるでしょう。私たちは必要に応じて新しいマウンティングキットを無料で提供しています。つまりこれは単純な価格ではなく『所有するための総合的なコスト(総所有コスト)』という考え方に基づいています。
総合的な所有コストを考慮すると、私たちの製品は安価な製品よりも結果的に経済的になる場合があります。もちろんすべての安価な製品を上回るとは言えませんし、最終的には各個人の判断に委ねられます。
製品を長く使い続けることに関心がなく、他の選択肢を選ぶ方もいるでしょう。それも完全に個人の自由です。ただ私たちの製品は長期間にわたり安定して動作し、簡単に壊れることもなく、長い間ゲームや作業など様々な用途で安心して使っていただけることをお約束します。

山田さん:私たちもまったく同じ考えです。まさにそれが私たちがNoctuaを選ぶ理由です。私たちサイコムのお客様もPCに長寿命と安定性を求めています。だからこそ私たちも常に時間をかけて慎重に部材を選びます。お客様のPCが長期間安心して使えるように、適切なパーツを選ぶことをとても重視しています。

Rolandさん:それが正しい道だと思います。使い捨てのPCや電子機器があふれていますが、安価に購入して壊れたら捨てるという文化は好ましくありません。資源というのは非常に貴重なものであり、それを無駄に使うのは良くないと思います。
ただ、長く使えることを重要と捉えるかどうかは各個人の判断です。私たちはその価値を提供する企業のひとつであり、そこに私たちの存在意義があります。

山田さん:はい、それが私たちの姿勢です。

10.日本のユーザーに向けてメッセージ

Rolandさん:はじめての来日でしたが、皆さんに本当に温かく迎えていただき、とても素晴らしい経験になりました。私たちが大切にしている価値観は、日本の方々の考え方や感性と非常に合致していると感じています。完璧さを追求する姿勢や製品の持続可能性を重視することは、日本のお客様にとって非常に重要な要素だと感じました。

私は今回、日本のユーザーの皆様から多くの情熱と共感を感じ、それを私たちの組織全体に伝えたいと思っています。私たちの組織では、常に製品改善に取り組み、ユーザーの皆様から信頼や評価を得るために努力していますが、日本に来てこの情熱を体験したことは、私たちにとっても非常に有意義な経験でした。
この経験をチームに伝え、『日本には本当に私たちの製品を心から好きでいてくれる人たちがいる』ということを共有したいと思います。

山田さん:素晴らしいですね。エンドユーザーだけではなく、システムインテグレーターである私たち自身もNoctua製品を非常に高く評価しています。製品に込められた細部への配慮や努力をしっかり理解し、その情熱を自分たちのシステム作りにも反映しています。あなた方の情熱が私たちの作るシステムにもそのまま注ぎ込まれていることをお伝えしたかったのです。

Rolandさん:本当にありがとうございます。そのメッセージを必ず私たちのチーム全員に伝えます。

山田さん:ありがとうございます。本日は貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。

10.サイコムおすすめPC

10-1.Silent-Master PRO Z890

独自の検証を重ねながら、エアフローによる冷却と静音のバランスを突き詰めた「Silent-Master」シリーズにおいて、巨大なヒートシンクが特徴的なNoctua製のファンレスCPUクーラー「NH-P1」を採用した究極の静音PCが「Silent-Master PRO Z890」です。

「NH-P1」は、TDP65W級のCPUでもファンレスで運用可能なポテンシャルを秘めていますが、「Silent-Master PRO Z890」ではTDP35W級の低電圧版CPU「Intel Core Ultra 7 265T」を組み合わせており、余裕を持った冷却が可能。さらにサイコムによる独自チューニングによって、65W級のパフォーマンスが確保されている点も注目です。

「Intel Z890 チップセット」搭載マザーボードをベースに、メモリはDDR5-5600を標準で32GB(16GB×2)搭載。ビデオカードは、「NVIDIA GeForce RTX 4060 Ti」を搭載したサイコムオリジナル静音モデル「Silent Master Graphics」を採用しており、静音PCでありながらも最新ゲームにも対応可能となっています。

究極の静音PCゆえにカスタマイズの幅は比較的狭くなってしまいますが、CPUを「Intel Core Ultra 9 285T」にパワーアップしたり、「NVIDIA RTX」シリーズのビデオカードを組み合わせて、静音クリエイターPCを狙ってみてはいかがでしょうか。

【Silent-Master PRO Z890】標準構成
CPU:Intel Core Ultra 7 265T【1.5GHz、20コア/20スレッド】
CPUクーラー:Noctua NH-P1
メモリ:DDR5-5600 32GB(16GB×2)
チップセット:Intel Z890 チップセット
SSD:1TB(NVMe/M.2 SSD)
ビデオカード:【Silent Master Graphics】 NVIDIA GeForce RTX 4060 Ti(16GB)

10-2.Silent-Master NEO B850A

世界各国で高い評価を獲得しているNoctuaの主力モデルとなる高性能CPUクーラー「NH-U12S」を採用した「Silent-Master NEO B850A」は、「AMD B850 チップセット」搭載マザーボードにZEN5コアの「AMD Ryzen 9000」シリーズを組み合わせたAMDプラットフォームのミドルタワー型静音PCです。

「NH-U12S」は、ナローヒートシンクデザインを採用した12cmファン搭載のサイドフロー型CPUクーラー。ニッケルメッキ加工が施されたφ6mmの銅製ヒートパイプを5本使用することで、効率的なヒートシンクへの熱移動を実現しており、高い冷却性能と静音性を両立させたCPUクーラーとなっています。

ビデオカードに「NVIDIA GeForce RTX 4060 Ti」を搭載したサイコムオリジナルの静音モデル「Silent Master Graphics」を採用するなど、静音性を突き詰めた構成ですが、CPUをゲーム性能の高い「AMD Ryzen 9 9950X3D」に変更したり、ビデオカードに最新の「NVIDIA GeForce RTX 50」シリーズを組み合わせるなど、高静音ゲーミングPCを目指したカスタマイズにも対応可能となっています。

また、サイコムではCPUクーラーのカスタマイズにも対応しており、デュアル120mmファンを搭載した「NH-U12A」や140mmファン採用の「NH-U14S」、さらには140mmファン2基を搭載した空冷CPUクーラーの最高峰とも言える「NH-D15 G2」など、様々なNoctua製CPUクーラーを組み合わせることができる点も注目です。

【Silent-Master NEO B850A】標準構成
CPU:AMD Ryzen 5 9600X【3.9GHz、6コア/12スレッド】
CPUクーラー:Noctua NH-U12S
メモリ:DDR5-5600 16GB(8GB×2)
チップセット:AMD B850 チップセット
SSD:1TB(NVMe/M.2 SSD)
ビデオカード:【Silent Master Graphics】NVIDIA GeForce RTX 4060 Ti(16GB)

10-3.Silent-Master NEO Z890 Mini

「Silent-Master NEO Z890 Mini」は、Micro-ATXフォームファクターを採用したミニタワー型の静音PCで、「Intel Z890 チップセット」搭載マザーボードをベースに、「Intel Core Ultra」とDDR5メモリを組み合わせたコンパクトなサイズ感が注目の1台となっています。

CPUクーラーには、サイコム定番と言っても過言ではない、Noctua製の「NH-U12S」を採用。熱がこもりやすいコンパクトモデルだけに、静音性はもちろん、高い冷却性能も魅力となっており、カスタマイズでハイエンドの「Intel Core Ultra 9 285K」を組み合わせることも可能となっています。

ビデオカードは、サイコムオリジナルの超静音ビデオカードである「NVIDIA GeForce RTX 4060 Ti」搭載の「Silent Master Graphics」が標準で採用されていますが、カスタマイズによって「NVIDIA GeForce RTX 5070 Ti」や「AMD Radeon RX 9070XT」をチョイスすることでランクアップを目指すことも可能です。

なお、PCケースはCoolerMaster製の「CoolerMaster Silencio S400」が採用されており、標準ではブラックモデルとなっていますが、カスタマイズによってホワイトモデルを選択可能となっているのも注目しておきたいポイントです。

【Silent-Master NEO Z890 Mini】標準構成
CPU:Intel Core Ultra 5 245K【4.2GHz、14コア/14スレッド】
CPUクーラー:Noctua NH-U12S
メモリ:DDR5-5600 16GB(8GB×2)
チップセット:Intel Z890 チップセット
SSD:1TB(NVMe/M.2 SSD)
ビデオカード:【Silent Master Graphics】NVIDIA GeForce RTX 4060 Ti(8GB)

11.まとめ

Noctuaの製品がなぜ世界中のPCユーザーから愛されているのか、サイコムがなぜ積極的にNoctuaの製品を採用するのか、その理由や想いが皆さんにも伝わったなら幸いです。

RolandさんイチオシのNH-D15 G2はもちろん、サイコムなら予算に合わせてNoctua製のCPUクーラーへカスタマイズが可能。安価な製品と比較すると価格は高く思えても、実際に使ってみればきっとその価値を実感できます。

長く快適に使えるハイスペックPCを探している方は、ぜひNoctuaの製品を採用したサイコムのBTOパソコンに注目してみてください。

BTOパソコン売れ筋ランキング

(4月1日~4月30日)

  • 1位
    1位G-Master Spear X870A
    Zen5アーキテクチャ採用のAMD Ryzen 9000シリーズを搭載するミドルタワー型ゲーミングPC。高性能と高拡張性を実現したゲーマー向けハイエンドモデルです。
  • 2位
    2位Radiant GZ3600X870A
    Zen5アーキテクチャ採用のAMD Ryzen 9000シリーズ搭載ATXミドルタワー型モデル。BTOならではのカスタマイズの幅が広いスタンダードなモデルです。
  • 3位
    3位G-Master Spear Mini B850A
    AMD Ryzen 9000シリーズを搭載する容量26.3リットルとコンパクトながら幅広いカスタマイズ性とミニマルなデザインを持ち合わせたゲーミングPC。
  • 4位Premium Line X870FD-A
    いいものを、永く。標準2年保証、無償オーバーホールなど末永くご愛用いただくためのアフターサービスも充実したサイコムが提案する新たなPCのカタチ。その名は、Premium Line
  • 5位G-Master Spear Z890
    AI時代の新CPU、Intel Core Ultraプロセッサを搭載するミドルタワー型ゲーミングPC。高性能と高拡張性を実現したゲーマー向けハイエンドモデルです。
  • 6位Radiant GZ3600Z890
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  • 7位G-Master Velox II Intel Edition
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    定番のインテル® Core™ プロセッサ搭載モデルです。
  • 8位Radiant VX3100B760/D4
    インテル®Core™プロセッサ(第14世代)採用のMicroATXミニタワー型モデル。ミドルタワー型PCは大きくて置けない、でも高性能なパソコンが欲しい!とお悩みの貴方にオススメ!
  • 9位G-Master Velox Mini B650A AMD Edition
    容量19リットルのコンパクト筐体にAMD Ryzen 9000シリーズとGeForce RTXシリーズを搭載するゲーミングPC。納得の標準構成と厳選されたオプションパーツでシンプルなカスタマイズが楽しめます。
  • 10位Lepton Motion Pro X870/A
    スタイリッシュ&ハイスペックな映像編集者向けPC。高負荷時の安定性と静音性を両立し拡張性も確保。現場の即戦力としてクリエイターをバックアップします。
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